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総水揚げの3割は“お金にならない魚” “価値ある食材”として福岡から全国へ ベンチャー企業の思い

暮らし

2023/03/24 15:00

味には問題ないのに、サイズや形が悪かったり傷があったりして、市場に出回らない魚があり、「未利用魚」と呼ばれています。

実は、日本での総水揚げ量の約3割は「未利用魚」が占めています。

これを“もったいない魚”として活用し、“おいしい魚”に変えて、着実に成果をあげている福岡のベンチャー企業を取材しました。
ハーブで風味付けした福岡県産地魚のオーブン焼き。

ふっくらした白身と香ばしく焼き上げた皮目は、高級感さえ漂う仕上がりです。

◆記者リポート
「とても甘いです。普段なじみのない魚とは思えないほど、食べてびっくり!おいしいです」

これは、パスタやドレッシングで知られる「ピエトロ」が、福岡の本店を始め全国9つのレストランで提供している期間限定の特別メニュー。
福岡市の水産系ベンチャー企業「ベンナーズ」とタッグを組んで、通常は使われることのない「未利用魚」を使って商品化しました。

未利用魚とは、漁獲されて食用に出来るにもかかわらず、サイズや形が悪かったり傷があったりするために、市場には出回らない「もったいない魚」のこと。
今回のコラボメニューに使われたのも、「イラ」と「オジサン」という普段馴染みのない魚です。
◆ベンナーズ 井口剛志社長
「日本全国の水産業を盛り上げて、日本全国の方にもっと魚好きになってもらえる機会を創出したい」

ピエトロの高橋泰行社長と共に、連携協定締結の会見に臨んだベンナーズの井口剛志社長は27歳。

大学卒業後、すぐに会社を設立した若き経営者です。

◆ベンナーズ 井口剛志社長
「代々水産系の家計で育ってきたんですけど、祖父母からは『この水産業界には関わるな』『他の業界を選んだ方が良い』と言われていた。ずっと魚を食べて育ってきた私からすると、それは非常に悲しいことだなと思うし、この現状をどうにか打破していきたいなと」
衰退する水産業界を盛り上げ、日本伝統の魚食文化を守るために興した会社。

どんな事業を展開しているのか訪ねてみました。
◆ベンナーズ 矢野功祐さん
「きょう入ってきた未利用魚。日によって(魚種が)変わるし、量もバラバラですが、全体で200キロぐらいが入ってきています」

味には問題がないのに、値段が付かないためにほとんど流通に回ることのない未利用魚。

実は、総水揚げ量の約3割、年間130万トン以上を、この未利用魚が占めているのが日本の水産業の現状です。
ベンナーズは、この「もったいない」に目をつけて、価値のなかった魚を価値ある食材として送り出しているのです。

◆ベンナーズ 矢野功祐さん
「手間がかかるというのは確かにありますね。ウロコを取ったりするのに。(ウロコを)取りやすい魚は機械にかければ一発で飛んでいっちゃうんで」

料理人として約20年の経験を持つスタッフの矢野さん。
魚を捌くのは本来なら朝飯前ですが、未利用魚は勝手が違うといいます。

ウロコが硬い魚や毒のあるトゲを持つ魚もいるため、手作業で丁寧に処理する必要があり、一般的な魚と比べて倍の時間がかかります。

◆ベンナーズ 矢野功祐さん
「おもしろいですよ。いろいろ魚に触れて、今まで扱ったことのない魚があるので経験にもなる」
こうして丁寧に捌かれた魚は、国産の調味料で味付けした後、専用の機械で瞬間凍結。

鮮度を保ったままミールパックとして出荷され、生食用は解凍するだけ、加熱用は湯煎したり焼いたりするだけで、手間をかけずに食べることができます。

販売開始から約2年、累計の販売数は7万食を超えていて、その売り上げは漁業者にも還元しています。
福岡市の玄界島で18年間漁を続けてきた宮川友芳さんは、ベンナーズと最初に契約を交わした漁業者です。

これまで売り物にならなかった未利用魚に値段が付くようになり、手応えを感じています。

◆漁師 宮川友芳さん
「もったいないと思っていたので、(ベンナーズと)合致したというか、やろうか、となった。価値にならない魚が価値になり出したというのはありましたね。3割捨てていた魚がお金に替わるので、儲けが増えるので助かりますよね」
水産業界の活性化を見据え、「もったいない」を「おいしい」に。

井口社長はそんなシンプルな発想で、今回のピエトロとの連携をきっかけに、未利用魚の活用の幅をさらに広げたいと意気込んでいます。

◆ベンナーズ 井口剛志社長
「どうしても未利用魚とかSDGsと聞くと、押し付けがましく聞こえてしまうので、純粋に『おいしい魚を食べてみたい』『食べてみよう』と思ってもらえるような取り組みをしていく必要がある。水産業自体が儲かる“カッコいい産業”に生まれ変わっていく必要があると思っています」

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