工藤会トップ死刑判決から1年(3)-1 元“マル暴”刑事が見た「野村被告の恐怖支配」誕生の瞬間
暮らし
2022/08/25 17:00
特定危険指定暴力団工藤会のトップ2人に死刑判決などが言い渡されてから2022年8月24日で1年。元福岡県警のベテラン捜査員が、死刑判決の衝撃、そして知られざる工藤会の内幕を語りました。
********************
<前編>
◆福岡県警 元捜査員A氏
「おそらく殆どの組員は『工藤会は解散しないと自分たちは存在していけない』というくらい追い詰められた。工藤会が衰微していったということは、昔は考えられなかった」
特定危険指定暴力団「工藤会」の弱体化に驚くのは福岡県警の元捜査員A氏(76)です。40年にわたる警察官人生のほぼ全てを暴力団捜査一筋で歩んだ人物です。
A氏が、いわゆる“マル暴”担当になったのは1970年代。当時、特に緊張状態にあったのが北九州地区でした。
◆1981年2月ニュースOA
記者「現在北九州市にある暴力団は42団体640人です。これがそれぞれ山口組系、反山口組系とに分かれて抗争事件を繰り返しており、両派の争いは次第にエスカレートしております」
当時、小倉の街は「工藤会」と新興勢力「草野一家」が対立関係にありました。1979年10月、「草野一家」の実力者「極政会」の溝下秀男会長が「工藤会」の中核団体「田中組」から襲撃されたことがきっかけで、いわゆる北九州戦争が勃発します。その2ヶ月後…
◆福岡県警担当者会見(1979年12月)
「工藤会 田中組組長 田中新太郎 年齢39歳。3発が命中して即死の状態」
「工藤会・田中組」の「田中新太郎」組長が「草野一家・極政会」によって射殺される事件が発生。両者の争いは泥沼化しました。その抗争の最中、A氏は「極政会」溝下氏と初めて出会い、取り調べにあたったと言います。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「溝下秀男との出会いは?」
A氏「田中新太郎事件の翌月」
Q「最初の印象は?」
A氏「悪い印象はなかった。事件も認めるし、素直な態度だし。なんでかわからんけどそういう雰囲気に流れていった」
それからA氏は捜査のため、溝下氏と会うようになりました。1981年2月「工藤会」と「草野一家」の抗争は稲川会などが仲裁に入り和解が成立しました。1987年、「草野一家」と「工藤会」は統合し「工藤連合草野一家」が結成されました。
◆福岡県警 元捜査員A氏
「私の知ってる限り、田中新太郎組長を殺したあとに工藤会の関係者が『溝下を殺す』と言っていた人間が沢山いた。それが、その何年かの間に一つになって。旧工藤会の者と会った時には全員が完全に抵抗できないというか、溝下のカリスマが強かったということでしょうね」
新組織結成から3年後(1990年)、溝下氏は「工藤連合草野一家」の二代目総長に昇りつめました。この時溝下氏と親子の盃を交わし組織ナンバー2になったのが当時「三代目田中組」組長だった野村悟被告だったのです。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「かつての親分である田中新太郎を殺害した組の当時のトップ、これは複雑な関係じゃないですか?」
A氏「それは私も疑問に思ったことがあるけど、本人は『それは野村とも話をして納得して子になった』と言っていた。野村自身は“枝の子(三次団体の組員)”ですから。そういうことで溝下も『(田中新太郎は)親じゃない』という野村の話を信じたのではないか。私が見る限り、本当に野村は溝下に心酔をしていた。言葉遣い、態度、本当にこの人には逆らってはいけないと」
そして野村被告は組織内での足元を固めていきました。1999年、「工藤連合草野一家」は「工藤会」に改称。三代目会長には溝下氏が付きました。この時期、溝下氏はA氏にこう打ち明けたといいます。
◆福岡県警 元捜査員A氏
「『北九州のことは全部野村に渡した』と、『俺は一切にタッチしてない』と。溝下を支えるということで彼の信頼を得たということでしょう」
2000年、溝下氏(当時53)は健康上の理由から野村被告を四代目工藤会の会長に指名しました。四代目会長になった時期、野村被告が作らせたという焼酎があります。黄金色の箱に入った五合ビンには「幻の焼酎・野村」「北九州・小倉」と書かれています。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「溝下秀男という人物はカリスマ性があって、それが組織をまとめあげた。野村悟という人物の組織をまとめる力の源泉はなに?」
A氏「やっぱり恐怖でしょう」
◆クラブ襲撃事件(『ぼおるど事件』2003年8月)
記者「北九州市の繁華街の高級クラブに爆発物のようなものが投げ込まれたようです」
2003年8月工藤会は暴追運動の先頭に立つ男性が経営するクラブに手榴弾を投げ込む事件を起こしました。この事件を皮切りに、工藤会は暴力団排除を打ち出した企業などを次々に襲い出しました。
((3)-2 後編に続く)
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<前編>
◆福岡県警 元捜査員A氏
「おそらく殆どの組員は『工藤会は解散しないと自分たちは存在していけない』というくらい追い詰められた。工藤会が衰微していったということは、昔は考えられなかった」
特定危険指定暴力団「工藤会」の弱体化に驚くのは福岡県警の元捜査員A氏(76)です。40年にわたる警察官人生のほぼ全てを暴力団捜査一筋で歩んだ人物です。
A氏が、いわゆる“マル暴”担当になったのは1970年代。当時、特に緊張状態にあったのが北九州地区でした。
◆1981年2月ニュースOA
記者「現在北九州市にある暴力団は42団体640人です。これがそれぞれ山口組系、反山口組系とに分かれて抗争事件を繰り返しており、両派の争いは次第にエスカレートしております」
当時、小倉の街は「工藤会」と新興勢力「草野一家」が対立関係にありました。1979年10月、「草野一家」の実力者「極政会」の溝下秀男会長が「工藤会」の中核団体「田中組」から襲撃されたことがきっかけで、いわゆる北九州戦争が勃発します。その2ヶ月後…
◆福岡県警担当者会見(1979年12月)
「工藤会 田中組組長 田中新太郎 年齢39歳。3発が命中して即死の状態」
「工藤会・田中組」の「田中新太郎」組長が「草野一家・極政会」によって射殺される事件が発生。両者の争いは泥沼化しました。その抗争の最中、A氏は「極政会」溝下氏と初めて出会い、取り調べにあたったと言います。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「溝下秀男との出会いは?」
A氏「田中新太郎事件の翌月」
Q「最初の印象は?」
A氏「悪い印象はなかった。事件も認めるし、素直な態度だし。なんでかわからんけどそういう雰囲気に流れていった」
それからA氏は捜査のため、溝下氏と会うようになりました。1981年2月「工藤会」と「草野一家」の抗争は稲川会などが仲裁に入り和解が成立しました。1987年、「草野一家」と「工藤会」は統合し「工藤連合草野一家」が結成されました。
◆福岡県警 元捜査員A氏
「私の知ってる限り、田中新太郎組長を殺したあとに工藤会の関係者が『溝下を殺す』と言っていた人間が沢山いた。それが、その何年かの間に一つになって。旧工藤会の者と会った時には全員が完全に抵抗できないというか、溝下のカリスマが強かったということでしょうね」
新組織結成から3年後(1990年)、溝下氏は「工藤連合草野一家」の二代目総長に昇りつめました。この時溝下氏と親子の盃を交わし組織ナンバー2になったのが当時「三代目田中組」組長だった野村悟被告だったのです。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「かつての親分である田中新太郎を殺害した組の当時のトップ、これは複雑な関係じゃないですか?」
A氏「それは私も疑問に思ったことがあるけど、本人は『それは野村とも話をして納得して子になった』と言っていた。野村自身は“枝の子(三次団体の組員)”ですから。そういうことで溝下も『(田中新太郎は)親じゃない』という野村の話を信じたのではないか。私が見る限り、本当に野村は溝下に心酔をしていた。言葉遣い、態度、本当にこの人には逆らってはいけないと」
そして野村被告は組織内での足元を固めていきました。1999年、「工藤連合草野一家」は「工藤会」に改称。三代目会長には溝下氏が付きました。この時期、溝下氏はA氏にこう打ち明けたといいます。
◆福岡県警 元捜査員A氏
「『北九州のことは全部野村に渡した』と、『俺は一切にタッチしてない』と。溝下を支えるということで彼の信頼を得たということでしょう」
2000年、溝下氏(当時53)は健康上の理由から野村被告を四代目工藤会の会長に指名しました。四代目会長になった時期、野村被告が作らせたという焼酎があります。黄金色の箱に入った五合ビンには「幻の焼酎・野村」「北九州・小倉」と書かれています。
◆福岡県警 元捜査員A氏
Q「溝下秀男という人物はカリスマ性があって、それが組織をまとめあげた。野村悟という人物の組織をまとめる力の源泉はなに?」
A氏「やっぱり恐怖でしょう」
◆クラブ襲撃事件(『ぼおるど事件』2003年8月)
記者「北九州市の繁華街の高級クラブに爆発物のようなものが投げ込まれたようです」
2003年8月工藤会は暴追運動の先頭に立つ男性が経営するクラブに手榴弾を投げ込む事件を起こしました。この事件を皮切りに、工藤会は暴力団排除を打ち出した企業などを次々に襲い出しました。
((3)-2 後編に続く)
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