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【博多ストーカー殺人】裁判メモ(3)「できるだけ長く刑務所へ」「一片の慈悲もなく残忍極まりない」

事件・事故

2024/06/26 17:25

2023年1月、福岡市のJR博多駅近くの路上で川野美樹さん(当時38)が刃物で複数回刺され死亡する事件が起きました。

その後、逮捕・起訴された元交際相手の寺内進被告(32)の初公判が2024年6月17日に福岡地裁で開かれ、被告は「刺したことは間違いないですが待ち伏せしたことは違います」と殺人罪については認め、ストーカー規制法違反の罪については否認しました。

弁護側は「待ち伏せした事実はありません」「恋愛感情はすでに失っていて、それに対する怨恨はない、ストーカー規制法については無罪」と主張しました。

この記事では、法廷内で読み上げられた遺族の手紙、検察による求刑の理由などについて、4回目(6月21日)、5回目(6月24日)の公判の詳細を、TNC裁判担当記者のメモをもとに詳しく伝えます。

<裁判メモ(2)からの続き>

◆川野さんから“ごめんなさいを聞きたかった”
6月21日、4日目の公判。まず裁判官や裁判員から寺内被告への質問が行われました。

<裁判官から寺内被告へ質問>
Q「自宅を襲撃されて持ち歩いた包丁はトートバックにどう入れていた?」
A「さやの状態で、ななめに入ってました」

Q「2本をひとつのさやに?」
A「です」

<裁判員(女性)からの質問>
Q「包丁2本持っていることは、川野さんは知っていた?」
A「知らないです」

Q「1本捨ててから、(自宅を襲撃した人物から?)襲われるとは思わなかったのですか?」
A「事件で捕まるので、いらないと思って」

<裁判員(男性)からの質問>
Q「お店や自宅にだけ包丁を置いておけばいいという考えはなかった?」
A「歩いているときも顔が割れていると思っていたんで」

Q「自宅や職場では常にバックの中に?」
A「はい」

Q「川野さんと会って、歩いてついていっていますが、『ダメなこと』という考えは?」
A「こっちも興奮していたので考えていなかったです」

Q「すぐ自首しなかったのはなぜですか?」
A「頭が真っ白になって、自分でもどうしていいかわからなくて、初めにしておけばよかったですが、なぜ行けなかったかという気持ちです」

<裁判官からの質問>
Q「ホテルを転々としていた時も包丁は持っていたが、包丁のことは川野さんは知らなかった?」
A「言ってないですね」

<裁判長からの質問>
Q「禁止命令後、(川野さんが勤務する)会社に電話し『人生めちゃくちゃにされた』というようなこと言っているが、具体的にはどういう意味?」
A「ストーカー呼ばわりされたり、罰金の話や襲撃などの意味です」

Q「電話で川野さんが謝罪していたら、あなたの気持ちは変わっていましたか?」
A「落ち着いていたと思います」

Q「どんな気持ちが?」
A「どんな気持ちですかね…」

Q「罰金をママやマスターが100万円払うことになったと、それを払ってほしいとは?」
A「払ってほしいというか、払うことになったという」

Q「それについて、ごめんなさいというのを聞きたかった?」
A「そういうことだと思います」

Q「健康状態に変化は?」
A「人としゃべってない分、会話がわからなくなりました」

Q「(勤務先の)バーでは喋れていた?」
A「ぺらぺらとしゃべっていましたね」

Q「体力は?」
A「がりがりになってきた」

Q「どのくらい?」
A「4.5kgくらいですかね」

Q「当時はもう少し鍛えていた?」
A「鍛えてはいないが筋肉はありましたね」

Q「気力や精神面は?」
A「ちょっと人見知りみたいになりました」

Q「博多でひと旗揚げたい、というのはいつごろまで思っていた?」
A「夏くらいまでですかね」


<検察側からの質問>
Q「川野さんが働いていたクラブで、ヘルプとして働いていたんですか?」
A「“ストーカー”といわれるまでは洗い物とかしていましたね」

Q「(バーと)かけもちしていた?」
A「はい」

◆“父親から暴力を受けていた”
このあと、弁護側の証人として、寺内被告の心理鑑定を行った臨床心理士が出廷しました。臨床心理士は、事件後に寺内被告と計11回面談し、8つの心理テストを実施した結果について、次のように述べました。

<心理テストから分かった寺内被告の特徴>
・未熟さや知的な問題を抱えていることがうかがえる
・自我の未形成、父親の影響が強く、母性的な愛情の欠如がうかがえる
・母性的なものへの依存欲求
・内面的に抱える緊張感が高まるとストレス耐性が下がる
・注意深く検討するよりも行動が軽率
・自分の主観的なイメージで判断する
・思い通りにいかないと「裏切られた」と思う
・精研式文章完成法テストでは、各テーマ(左側の文)に対し、それぞれ以下(右側)のように回答した
 「私の失敗」⇒福岡に来たこと
 「思い出すのは」⇒事件のこと
 「やり直すなら」⇒事件の前の日に戻りたい
 「自殺」⇒何度も考えた
 「私の気持ち」⇒ごめんなさい
・一方でトラブルに関しては他者や自分を非難するよりは許容する傾向が高い
・虐待やいじめられた経験の示唆
・PTSD⇒中等度から重度の精神的ストレスを抱えている可能性がある

<面接から分かったこと>
・語彙が少ない
・具体的な出来事ばかりで感情や情緒などの言葉がほとんどない
・経験や興味のある話になると滑らかにしゃべれる
・家族や学校で学力や知識をみにつけられないまま成長したことがうかがえる
・ほとんど母親の手で育てられた
・両親に一緒に遊んでもらった経験が少ない
・小3ごろから中3くらいまで父親から身体的暴力を受けていた
・それによりボクシングを習い始める
・中学生ではけんかなどの非行に走る、一方でシンナーなどの非行はしていない
・中学ではけんかが強いこと、大勢にもひるまず立ち向かうことを誇りに思う
・保護環境がなかった
・ボクシングが被告人の自信となり、弱いものは守り強いものにひるまない、約束は守るという明確な価値観を持たせている一方で、バランスの欠けた自身にもつながっている
・大きな精神的苦痛を感じると「覚えていない」と繰り返すなど、記憶を切り離す、乖離症状の疑いがある
・事件後「頭がまっ白になってまったく覚えていない」など話すなど、乖離症状の中で行われた疑いがある

以上を踏まえて、寺内被告に求めることとして、「ありのままに認知する訓練を受ければ本来持っている弱いものへの思いやりなどの良さを発揮できる」「PTSDの疑いがあり、精神科医の診断や治療、臨床心理士の心理療法などが不可欠」としました。

◆「できるだけ長く刑務所へ入れてください」
6月24日、公判5日目。検察側が寺内被告への論告求刑を前に、殺害された川野美樹さんの母親が書いた手紙を読み上げました。

<検察側が読み上げた遺族の手紙>
「私は令和5年(2023年)1月16日に博多駅近くで殺害された被害者の母親です。娘は寺内被告に殺害され、遺族として心情を述べます。

娘は事件の2日後の1月18日に誕生日を迎え38歳になる予定でした。

娘は小さいころから活発で、思い立ったらすぐに行動するタイプでした。母子家庭で15年生活しましたが明るく育ちました。2人で暮らし、過保護なくらいに愛情を注ぎました。

その後、私が再婚しましたが、夫とも仲良く過ごし、中学時代はダンススクールに通うなど、持ち前の明るさで友達にも恵まれました。その後3年間、東京で過ごし、結婚して長女、私にとっては孫が生まれました。離婚して4人で福岡へ移り暮らすようになりました。福岡では一家の大黒柱として生活を支えてくれました。

令和2年(2020年)10月、人材派遣会社で正社員として働き始めると、「仕事が楽しい」と話していて、毎月私たちに生活費を渡してくれました。毎日7時40分ごろ自宅を出て、残業などがなければ6時半には帰宅をする生活でした。

令和4年(2022年)10月下旬ごろ、平日なのに遅い日がありました。帰宅すると私に『ストーカーみたいなのがいて警察に相談した』と話しました。『大丈夫?』と聞くと『大丈夫』と答えました。警察にも相談をしているし、孫に聞かれると怖がらせると思い、誰なのか、どうしてなのかは聞きませんでした。

令和4年(2022年)11月、自宅へ警察が送り届けてくれたことがありました。LINEで娘から『家の戸締りをしっかりするように』と来ました。警察と話すと『危険なので全員避難するように』と言われましたが、夫も私も仕事があるし、避難はとてもできないと警察へ伝えました。

その後12月は毎日警察がパトカーでパトロールをしてくれて、これで手出しはできないと安心しました。

令和5年(2023年)1月16日、娘から「6時半ごろ最寄り駅につく」と連絡があり、夫が車で迎えに行きました。7時を過ぎても娘は出てこず、電話も通じませんでした。名刺をもらっていた警察官へ電話し、安否確認をしてくれました。警察から「事件に巻き込まれている」と聞いて博多警察署に電話するように言われました。確認したら病院にいると言われて病院に訪ねたところ、その後『娘が亡くなった』と連絡を受けました。

1月17日、葬儀場で娘と会うことができました。娘が亡くなったことに実感がわかず、信じられない気持ちでした。犯人は捕まらず、警備が敷かれた中で葬儀は行われ、親族が参加しましたが、職場の人などは参加できず、本当はたくさんの人にお別れを言ってほしかったです。娘が亡くなってから生活が完全にストップしました。我が家は娘が稼ぎ頭で、今後の生活にも不安があります。孫が本当に不憫で、今は学校に通えていません。

被告に対しては死刑にしてほしいと思います。死刑にしても娘が戻ってくるわけではないですが、極刑を望みます。法廷でこうして思いを伝えると被告が逆恨みするのではないかと不安です。娘と大好きなお酒も一緒に飲めないし、思い出も作れない。娘を思い出して胸に穴が開いてしまった気持ちです。

事件後、ストーカー事件を耳にすることがあります。被告からのストーカー被害に手段を尽くしたのに、殺害されてやりきれなさを感じます。できる限り厳しい処罰を望みます。そうしないとストーカー被害は防げないと思います。被告が反省できるとは思わないです。できるだけ長く刑務所へ入れてください。最後に、遺族の我々はそっとしておいてほしいと思います。」

◆検察側の論告求刑
検察側は、寺内被告に求刑するにあたり、最終の意見陳述を行いました。まず、ストーカー規制法違反の罪について、弁護側が「寺内被告が川野さんと接触したのは偶然だった」と主張していることに対し、検察側は以下のように述べました。

・寺内被告は事件当日の2023年1月16日、午後6時03分から約3分間にわたり、特に何もない路上で立ち止まっていた

・立ち止まっていた場所は、川野さんの勤務先会社と川野さんが帰宅時に利用するJR博多駅の途中の歩道だった

・川野さんが午後6時前後の時間帯に退社することや、帰宅時にJR博多駅を利用することを知っていた

・川野さんを見つけて近づき、傘をぶつけて「おい」と声かけし、川野さんから拒まれていることを分かった上で殺害現場まで川野さんに追従し、川野さんが警察に相談したことなどに対し文句を言ったり、謝罪を求めたという一連の言動をちゅうちょなく行った

・寺内被告がかつて恋愛感情を抱いていた川野さんが警察に被害申告したことを逆恨みし、それが次第に怨恨という感情に変わり、その感情を充足させる目的で、川野さんと接触できると予想・期待して立ち止まっていたところに川野さんが現れ、川野さんと接触し、追従したことは明らかで、川野さんとの接触は偶然ではない

⇒よって、ストーカー規制法が定める「待ち伏せ」「つきまとい」に当たる

・川野さんとしては、禁止命令を受けていたはずの被告人に何の前触れもなく待ち伏せされ、寺内被告が「つきまとい」をしている間の言動も粗暴

⇒「待ち伏せ」「つきまとい」は、川野さんの身体の安全や行動の自由が著しく害され、不安を覚えさせるような方法で行われた

・禁止命令の際の対象行為「連続電話」と、本件時の「待ち伏せ」「つきまとい」をあわせて少なくとも2回繰り返しており、反復している

⇒「つきまとい等」が反復して行われた

以上の理由から「ストーカー規制法に違反する」と主張しました。

◆「懲役30年」を求刑
また「法治国家に対する信頼を損ないかねない重大な類型の事件であり、禁止命令に違反してストーカーの被害者を殺害したという法治国家への挑戦というべき特別な犯罪類型として捉えるべきである」と述べました。

さらに
・川野さんを包丁で少なくとも17回もの多数回突き刺したこと
・最も深い傷は20センチあったこと
・包丁の先端が折れ頭蓋骨に刺さっていたこと
・人目を意に介することなく川野さんに襲いかかり、通行人が驚いて犯行を目撃しているのにも構わず犯行を完遂したこと

などとして、「川野さん殺害の犯行様態は強固な殺意にもとづく一片の慈悲もない残忍極まりないもので、悪質性が極めて高い犯行」としました。

その上で、「被害結果は極めて重大」「自己の非を一顧だにせず、短絡的・自己中心的な犯行動機に酌量の余地は皆無であり、生命軽視の無慈悲な意思決定は極めて厳しい非難に値する」とし、情状面については「寺内被告が成人し仕事を得て相応の社会生活を送っていたのであり、今回の事件が男女関係の問題として生じた事件であることを踏まえると、幼少期の生活環境を持ち出して検討することは明らかに不相当である」として

寺内被告に対し有期刑の上限となる懲役30年を求刑しました。

◆弁護側「懲役17年が妥当」
一方、弁護側は最終の意見陳述で、以下のように述べました。

・寺内被告は事件当日、川野さんを待ち伏せしていた訳ではなく、偶発的に起こった殺人事件であって、計画的なものではない

・事件当日に所持していた包丁は自身が起こした傷害事件に対する報復を恐れて、日頃から持ち歩いていたものであり、川野さんを殺害するために準備されたものではない

・ストーカー規制法に基づく警告後、寺内さんは事件当日まで川野さんと接触していなかった

・警告によって店などから被害者との交際の事実がばれるなどして、信用を失ったことに対する恨みから、川野さんに「ひと言言ってやりたい」「謝罪させたい」という気持ちはあったものの、復縁したいなどの恋愛感情は既に消滅していた

・事件当日、寺内さんは携帯電話料金を支払うために川野さんの勤務先の近くである事件現場周辺にいた

ことなどを挙げた上で、「川野さんを殺害したという事実に争いはないが、寺内被告の行動は、ストーカー規制法に基づく『待ち伏せ』『つきまとい』に該当せず、ストーカー規制法については無罪である」「包丁は護身用に持ち歩いていたもので、犯行はあくまで偶然が重なった偶発的なものであり、計画性は認められない」とし、

として「傷害罪、銃刀法違反の罪、殺人罪の3つを加味して、過去の判例に照らすと量刑は懲役17年が妥当である」と主張しました。

◆最後に「ほんまに待ち伏せなどしておりません」
審理の最後に、事件に対して被告が意見を述べる「最終意見陳述」で、裁判長は寺内被告に以下のように質問しました。

Q「最後に話しておきたいことは?」
A「ご遺族の方、この度は大切な人の命を奪ってしまい申し訳ございません。お孫さんの成長を見守る母(※)の権利を奪ってしまったことは申し訳ありません。毎日毎日後悔しております。幸せな家族の時間を奪ってしまい申し訳ありません。全てにおいて僕が悪いと思っています」
(※「お孫さん」=川野美樹さんの母親から見た孫、「母」=川野美樹さん)

Q「それで大丈夫ですか?」
A「ほんまに待ち伏せなどしておりません」

Q「以上でいいですか?」
A「川野さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

以上ですべての審理は終了し、判決は6月28日(金)に言い渡される予定です。
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